ティルマンスは、ターナー賞を写真家として初めて受賞し、写真界のみならず現代アート界で注目を集める写真家である。壁面いっぱいに星座のように大小様々の写真をレイアウトするインスタレーションが有名である。2018年に刊行した『Kaiserringträger der Stadt Goslar 2018』は、両面印刷した3メートルの本文を、巾165mm毎に折り畳んで製本された大変ユニークな折本構造の写真集である。本研究は、この写真集を編集の観点から読み解くことである。謎解きのように、ティルマンスが仕込んだ編集行為のひとつひとつを解釈して読み解いた。その結果、本写真集は、書物の形態をした新たなインスタレーションに違いないという結論に至った。当初、「読む」ことを目指した本写真集は、実は、展覧会のように「見る」ものであった。本研究後、人に、よく見て注意深くさせようとするティルマンス作品の真摯な企てに、私はまんまとやられたことに気付いた。