素材と表現技法について
 素材と表現技法は描画材6項目、支持体1項目で構成される。各項目では個別の描画材を紹介する。
 描画材が違っても対象を観察しデッサンをすること自体は基本的に同じである。このページではデッサンの進め方の一例を紹介する。
 木炭デッサン。MBM木炭紙を使用する。
描画材
■デッサンの進め方(プロセス・素材に慣れる)
1.静物を描く
「絵を描くこと」を前提にものを見ると、何の変哲も無いものが特別なものとして見えてくる。果物は赤や黄色に色付いて見える。金属の器物は硬く重そうに見える。壜は透明で滑面がつるつるとして見える。ただ見る事のために在る物は普段と違う見え方をする。静物を描く楽しみはそんな時間を作ることでもある。
2. モチーフをセットする
 モチーフはいろいろと動かして、描きたいと想う設定を探す事が大事である。球状の形、棒状の形、板状の形や色彩のバランスなど、気に入った形の関係や、手前、背後の空間設定など大きく全体を見ながらセットする。また光源の設定でも見え方が大きく変わるので配慮したい。大きなモチーフから決めてゆくと設定しやすい。
3. クロッキーを描く。
 モチーフのセットが決まれば、まずはクロッキーをはじめる。クロッキーは気軽に手を動かすことが大事である。部分、全体、目線の高さ、モチーフまでの距離などを変えて大雑把に何枚か描いてみる。見る事と描く事とは違うものである。見ていて良いと感じているものも、実際に描く事で想わぬ発見がある。構図の違う何枚かのクロッキーを描き終えたらじっくりと比較してみる。
4. イーゼルにカルトンをセットする。
 クロッキーの中からエスキース(下絵)を決める。気軽に描いたクロッキーとは想わぬ要素を含んでいる。制作中に見えるよう、近くに置いておく。エスキースをもとにイーゼルをセットする。手が画面の上から下まで届くように高さを設定する。イーゼルの位置は右利きなら向かって右側が描き易い。但し、画面自体が暗くなる逆光の場合などその限りではない。
5. 素材に慣れる(心掛けとして)
 練習用の画面を用意する。下敷きにしている紙の一枚を練習用として使ってみる。ものを観察していると手の動きが小さくなる事がある。丁寧な仕上げを意識したり、物(モチーフ)の表面に捉われると大きく手を動かせなくなる。まずは気軽に準備体操として腕を自由に動かしてみる。
6. モチーフを見る、画面を見る。
 モチーフを見る、画面を見る。観察する事と描く事の繰り返しがここから始まる。大きく全体で進めるためには大雑把な形の関係を意識してみる。あまり改まらずクロッキーの延長のようなつもりで進めるのが良い。眼を細めてモチーフを見ると細部が気にならなくなる
7. 制作する
 描き進めるに従って物の見え方は深まるものである。全体のバランスや明暗の関係など、画面とモチーフとの違いが発見できれば一段階先に進んだようなものである。躊躇することなく描き直す事が大事である。普段何気なく見ている物でも見方、捉え方が深まると感じ方にも広がりが生まれる。またそのように感じた瞬間が、絵を作ることの醍醐味でもある。
8. 画面を離れてみる
 納得のいく画面が出来たら終了とする。木炭は定着力が弱いので必ず全体にフィクサチーフをかけること。画面から20~30cmほど離して満遍なく全体に行きわたるようにスプレーをかける。液体の吹きつけ式のフィクサチーフも同様である。かけ忘れの部分がないよう注意する。
木炭デッサンの注意点
鉛筆デッサンの注意点
9. フィクサチーフで定着させる。(スプレー式、吹きつけ式)
 絵を描く作業は、作画に夢中になることと、冷静に画面を見ることの両方が必要とされる。クロッキーサイズであると手持ちの距離で全体を眺める事が出来るが、木炭紙サイズになると手が届く距離では全体が見づらい。離れてみると画面は小さくなり全体が見やすくなる。制作途中は時々離れて画面を見ると良い。
スプレー式:
吹きつけ式:
デッサンの進め方の一例である。