素描に関係する用語について
デッサン表現(意識と行為による捉え方)
明暗
 明暗は明るさ暗さのことであり、絵画における造形要素として重要である。我々は光が当たることによって生じる明暗によって物の形を見分け、明暗を利用して物の形を表現することができる。
 明暗は、単色(モノクローム)の素描では、白黒などの濃淡や強弱によって表されるが、色彩を伴った絵画の場合は、色相(色の種類)や彩度、明度、寒暖など、色の性質が作用してくる。また、明暗を使った技法は、キアロスクーロ(明暗法)や陰影法などと呼ばれている。
キアロスクーロ
 イタリア語で明暗を意味する言葉で、美術用語では明暗法や陰影法として使われる。光と影による明暗の対比を利用して、物の立体感や空間の奥行きを表すと同時に、心理的な効果をも高める技法である。ルネサンスのダ・ヴィンチの絵画やデッサン、また、カラヴァッジオ、レンブラント、ベラスケスなどのバロック絵画の中にその高度な扱いを見ることができる。
 キアロスクーロは、単色(モノクローム)で描いた絵画やデッサンや、15〜18世紀にイタリアやドイツで普及した木版画の明暗表現に基づく三色刷りの技法を指す場合もある。
調子
 英語でトーンともいう。本来は、音色や音調などを表す音楽用語であるが、転じて、絵画でも、白黒を含めた色彩の明暗や濃淡を表す言葉として使われている。特にデッサンにおいては、線と共に、表現を成立させる基本的なものとしてよく使われる言葉である。
 明るい調子とか強い調子といったように、色彩の明暗、強弱、濃淡、の相対的な在り方を示す。また、美しい調子とか陰鬱な調子といったように、感覚的なものと結びついて表現の内容を表す言葉としても使われる。
 調子はある範囲(面積)に渡る効果を表していて、線に対して面を作り出す働きがある。「調子をつける」とか「調子で描く」ということは、色彩の明暗、強弱、濃淡などの的確な取扱いを通して、立体感や空間感を表すことである。
スフマート
 煙のようなというイタリア語からきていて、美術用語では、「ぼかし技法」という意味で使われている。木炭、パステル、絵具などの描画材を用いた上を、筆や刷毛、あるいは指や布などを使ってぼかすことにより、明暗や色彩の濃淡のなめらかな移行(グラデーション)を表す方法で、より自然な立体感や空間感を表現することができる。また、透明な色彩の層を塗り重ねることにより「ぼかし」の効果を表す油絵の技法をも指す。
 スフマートはレオナルド・ダ・ヴィンチによってその芸術的価値が高められたと言われている。
グラデーション
 明と暗や、異なる2色間の濃淡が滑らかに連続して変化してゆく表現のことで、スフマート(ぼかし)の技法と重なるところがある。日本語では階調と訳されるが、階調は明暗や2色間の段階的な移行を意味し、4段階よりは6段階というように、その段階が多いほど滑らかに表現できる。
マチエール
 フランス語で材料や物質のことを指すが、美術用語では「画面の肌」という意味で使われていて、絵画表現を支える造形要素の一つとして重要な役割を持っている。
 押さえる、こする、たたく、引っ掻く、削る、塗る、重ねる、垂らす、染み込ませる、といった行為を通して、絵具やその他の素材が画面の上に作り出す効果のことである。
テクスチュア
 英語で「織り合わされたもの」とか「織り方」を意味し、転じて、材料や物質の持つ肌触りや質感、また、それらが組織、構造化されたものを指す。マチエールと共に絵画表現の造形要素を示す言葉としてよく使われる。
ハッチング
 英語から来ていて、線を平行に何本も描く技法で、線影ともいう。主に影や表情を出すために用いられ、特にデッサンではよく使われる技法である。その応用として、線を平行に何本も引いた上に、さらに違う方向からそれにクロスさせるように平行線を重ねる描き方を「クロスハッチング」というが、それ以外にもさまざまな応用的な描き方がある。
点描
 絵画において、点の集合や非常に短い筆致を使って描く技法のことを点描法という。特に印象派の画家が多く用いた技法で、短い筆致の描き方を別に「筆触分割」ともいう。
 フランス人の画家であるジョルジュ・スーラは、その技法をさらに徹底して推し進め、点描主義(新印象派)を確立した。
 水墨画には、水墨の点を集合させて描く、米点法という技法がある。デッサンでは、主に陰影や表情を出すために使われる。
ムーブマン
 運動や動勢を意味するフランス語で、美術では、動き、動勢、動感などを表す造形用語として使われる。絵の中に、上昇、下降、膨張、縮小、近づく、遠のく、旋回、流れといった動きを感じるのは、主に視覚を中心とした人間の感覚の働きによっている。
 線や面の方向性、形の大小や量感、明暗の大きな流れやリズム、前進性や後退性といった色の性質、また、筆触の勢いやリズムなど様々な要素が連動するような形で複雑な動きが生まれる。
ボリューム
 英語で、容積、容量、体積を意味し、美術用語では大きさや重さといった量感を表す言葉として使われる。また絵画表現では、手で触れるような肉付きや膨らみといった実体感を表そうとするところから、質感とも関係して、質量感という言い方もする。
 18世紀までは主にマッスという言葉が使われていたが、ボリュームがより拡がりのある大きさをも表すのに対し、マッスは限られた物の量感を表す。
モデリング
 絵画表現におけるモデリングは、肉づけ法ともいい、いかにも手で触れそうな、実体感のある表現を生み出す技法である。デッサンの場合は、陰影や明暗などをもとに、それを木炭やコンテ、あるいは鉛筆の調子に置き換えながら、ボリュームや形を表して行く方法で、輪郭線だけでは表し難い凹凸や形が画面から突出してくるような効果が生まれる。
モチーフ
 モチーフはフランス語で主題を意味する。絵画では描く対象のことであり、風景、人物、静物など目に触れる実際の物であったり、目には見えない記憶や心に浮かぶ想念、心象、形象など、ありとあらゆるものがその対象となりえる。また、モチーフは絵を描く動機にもなっていて、何を描くかの選択は、作者の内的必然にもかかわっている。
 したがって、モチーフの選択から既に絵は始まっているともいえる。同じ、主題を意味するテーマという言葉はドイツ語から来ていて、こちらもよく使われる。
エスキース
 フランス語から来たエスキースという言葉は、下絵という意味で使われている。独立した作品というよりは、絵画の制作過程の一端として作成されるものである。
 構想から取材、必要な資料の収集、使用する素材の実験、構成や構図の研究といった行程の中で、クロッキーやデッサン、彩色やコラージュをもとに、その目的にしたがって、試し描きに近い実験的なものから、かなり描き込んだ本制作の縮小版といったものまでいろいろある。
 本来は独立した作品ではないが、そこには、作者のアイデアや実験がじかに示されていて、完成された本制作とは違った魅力がある。なお下絵は、日本画や版画の制作行程で使う言葉でもある。
クロッキー
 フランス語から来ていて、ごく簡単な線描で対象の特徴を素早く捉えるデッサンとされている。しかし、簡単なデッサンという意味ではなく、クロッキーには時間を掛けて描くデッサンとは違った別の魅力がある。
 短時間で、直感に従って対象を捉え描くことが、端的な形の捉え方、活き活きした線自体の魅力、暗示力に富んだ線の働きといったことにつながり、時間を掛けて描き込んだデッサンよりも本質的なものが表れていたりもする。
スケッチ
 英語のスケッチは、写生画、下絵、見取り図、略画、下書き、草案といった意味がある。目にした形やアイデアなどを簡単に描きとめるメモ描きや、気軽で構えたところのないデッサンという意味で使われていて、より簡単にスケッチすることをラフスケッチとも言う。風景画の場合、現場で制作した小品をもスケッチと言ったりする。
フロッタージュ
 フロッタージュは、「こする」を意味するフランス語のフロッターから来ている。表面がでこぼこした物の上に薄い紙を置き、上から鉛筆やコンテなどで軽くこすることにより、その表面を写し取る技法。
 シュルレアリスムの主要な画家である、マックス・エルンストがこの技法を使って多くの作品を作った。
遠近法
 遠近法は、英語のパースペクティヴ(略してパースともいう)の訳語である。遠近法は我々の存在する三次元の世界を二次元の平面に表す方法で、奥行き法などともいう。線遠近法(透視画法)、空気遠近法、色彩遠近法、逆遠近法、短縮法など奥行きを表す様々な技法を総称して、遠近法と言う。
 初歩的な遠近法は、既に紀元前4世紀の古代ギリシャ時代に研究されていたことが伺えるが、15世紀のイタリア・ルネサンスの時代に、彫刻家で建築家でもあるフィリッポ・ブルネレスキや人文学者で建築家、また画家や彫刻家でもあったレオン・バッティスタ・アルベルティによって線遠近法(透視画法)が体系化された。
 ピエロ・デ・ラ・フランチェスカやレオナルド・ダ・ヴィンチらの画家達は、自分の絵画制作に応用しながらそれをさらに押し進め、空気遠近法、色彩遠近法、短縮法、また、キアロスクーロ、スフマート、モデリングなどの技法を駆使して奥行きのある現実的な世界を表そうとした。
透視画法
 透視画法は線遠近法とも、あるいは幾何学遠近法ともいわれ、いろいろな遠近法の中でももっとも研究され、体系化された遠近法といわれている。
 透視画法の基本は、視点の前にある投影面に、それを通過する光を写し取ることである。また遠いものは縮小して見えるという原理に基づいていて、たとえば、まっすぐと続く線路の真ん中に立つと、平行した二本のレールがはるか遠くの地平線上の消失点に向かって収束していくように見える。その時仮に、目の前が窓ガラスであったとしたら、窓を通して見えるその光景を、ガラスの表面に写し取ることで、実際の風景と同じような奥行きのある絵ができるということになる。
 透視画法は、15世紀の初めにブルネレスキがその方法を実証し、その数十年後に、友人であるアルベルティによって公式化・理論化されたと言われている。消失点の数により、一点透視図法、二点透視図法、三点透視図法などがある。
デッサン表現(意識と行為による捉え方)
参考文献、参考ホームページ
新装版 絵画材料事典  著者=R・G・ゲッテンス+G・L・スタウト訳=森田恒之 美術出版社
絵画表現のしくみ  監修=森田恒之  美術出版社
画材の博物誌   著者=森田恒之  中央公論美術出版
水彩画の歴史    監修・執筆=橋秀文   美術出版社
絵具の化学  ホルベイン工業   中央公論美術出版
絵具の事典  ホルベイン工業   中央公論美術出版
絵画材料ハンドブック  ホルベイン工業技術部編   中央公論美術出版

伊研ホームページ    http//www:fsinet.or.jp/~iken/
株式会社ミューズホームページ http://www.muse-paper/co.jp/index.html
日本印刷産業連合会 ぷりんとぴあ  http://www.jfpi.or.jp/printpia/kami/index.html
株式会社立川紙業 紙の豆事典 http://www.kami.co.jp/