下絵を用意し、マットフィルムまたはトレーシングペーパーにトレースする。それを裏返し、念紙(ベンガラ転写紙)を用いて版に転写する。リトグラフの場合、他の版種のようにカーボン紙は用いない。
アルミ板の表面は、手の油脂分で反応しないように注意して扱わなければならない。アルミ板はできるだけ版画紙よりも大きいものを使用して、イメージ以外のマルジュの部分には予め製版液を塗っておくと描画し易い。
描画は、リトクレヨン、ダーマトグラフ、ラヴィ(解き墨)などを用いて行う。描画領域の中に、予めアラビアゴム溶液で描いておくと白抜きの効果となる。ボールペンや鉛筆、サインペンなどでも描くことは出来るが、リトクレヨンやダーマトグラフのように、製版工程での安定感はない。
ドローイング〜トレース:
トレース(転写):
ドローイング(リトクレヨン):
解墨で描画:
描画が終わった版は、第一次製版を行う(解き墨は良く乾燥させる)。まずレジーヌを描画部に対して、柔らかい布でやさしく擦り込む。余分な粉を払った後、今度はタルクを画面全体に、柔らかい布でやさしく擦り込む。
レジーヌをつける:
タルクを付ける:
製版液(アラビアゴム溶液)を画面に対して、刷毛で素早く均一に塗る。描画した油脂分の上ではじく製版液を、乾燥しないうちにウエスを使って乾拭きする。
◆第一次製版
- レジーヌを描画部に処理する。
- タルクを画面に処理する。
- 製版液(アラビアゴム溶液)を画面に処理する。
- 製版液(アラビアゴム溶液)を乾拭きする。
製版液を塗る:
乾拭きをする:
第一次製版を終えて、1日くらい間隔をあけてから第二次製版へ移行する。
ここでは、ラッカーとチンクターを使った版の補強を説明する。
感脂化された描画部は、アルミ板の場合とてもデリケートなため、製版時や印刷時にその図像を失いやすい。確実性を高める目的で第二次製版の直前に、この作業を行う。
◆版の補強
- プリントクリーナーで描画材を溶解して拭き取る。
- ラッカーをウエスで擦り込み乾かす。
- チンクターをウエスで擦り込み乾かす。
- スポンジで水洗いする。
この作業は製版液の皮膜がある状態で行わないと、非描画部まで補強が作用してしまうので注意が必要である。
画線部をプリントクリーナーで除去:
ラッカーを擦り込む:
チンクターを擦り込む:
水洗い(アラビアゴムを溶かす):
ここでは補強した画線部に、製版インクに盛る作業を説明する。
製版インクを裏革ローラーに巻き付け、版にインクを盛って画線を再現していくが、この時の製版インクの盛り具合が印刷時のそれに反映する
◆第二次製版
- スポンジで水洗いする(製版液の除去)。
- 裏革ローラーで製版インクを盛る。
- 版面の水分を乾燥させる。
- レジーヌを画線部に処理する。
- タルクを画面に処理する。
- 製版液を画面に処理する。
- 製版液を乾拭きする。
これで製版が完了する事になる。
修正のタイミングは、製版インクを盛った後になる。第二次製版が完了した後に浮石棒を用いた場合は、アルミの表面が削り取られているので、改めて修正部分だけを製版処理する必要がある。
また、製版途中で版が汚れ易いようであれば、最後にH処理を行い良く水洗いをしてから製版液を塗布すると良い。
ローラーにインク巻き付ける:
製版インクを塗る:
レジーヌをつける:
アラビアゴムを塗る
タルクをつける:
H処理:
主に印刷時に行う処理で、画線部が製版インクで確実に保護された状態でのみ行う手法である。
第二次製版以降に、非画線部に汚れが目立った場合、H液を含ませたスポンジで画線部もろとも作用させる。
H液は酸性の液体で版面を不感脂化する働きが強い。印刷時には湿し水に混ぜて使い、印刷中のトラブルを防ぐ用途もある。市販品が多い。 |
水洗い(アラビアゴムを溶かす):
リトグラフでのT字見当:
印刷を想定し、版に版画紙を置いた状態でイメージ画面の長辺を下にする。この時イメージ画面の短辺が縦になっており、その左右の短辺を真っ直ぐ垂直に下ろして版画紙の底辺と交わる位置(左右)を見当とする。
その接点を基準にして、版画紙の方には薄い鉛筆で数字1のような目印を付ける。
アルミ板の方には英字Tのように、横線は版画紙の底辺(左右)に平行、縦線は画面の短辺(左右)の下方延長上にニードルで刻み付ける。 |
余分なチンクターを拭き取る:
版の状態:
補強後の水洗い:
版の補強後の版面は、感脂化した画線部がラッカーとチンクターの皮膜に覆われて、薄紫色になっている。 |
製版液の調合:
アラビアゴム溶液に対して2%未満のリン酸を混合する。稀に微量の氷酢酸を混合する場合がある。
アラビアゴム溶液に含まれるアラビン酸だけで、時間をかけて作用させる場合もある。 |