支持体
■支持体について
描画材と支持体
 素材の面から絵を構成しているものを大きく分けると、「描画材」と「支持体」となる。支持体とは描画材を支えるもので、「基底材」ともいう。デッサンの場合は主に紙である。
 筆記具とその支持体の歴史とは、人類が文字や絵を使用するところから始まる。岩壁や土の上に何かを記すところから樹皮や木片、動物の骨や皮などありとあらゆる物が支持体として使用された。
 やがて中国で紙が発明される。使い勝手がよく、保存に優れ、かさばらない紙は、現在でも素描の支持体として世界中で使用されている。
紙の表裏:
 紙はその使用目的により表面処理される。機械抄紙は通常片面を作る。例えば印刷用紙ならば、平滑な面が表である。一般的に紙は滑らかな面を表として使用するが、美術用のものは概ね反対で凹凸のある面を表とする。
 木炭紙の場合、独自のスノコ目(濾簀)があるほうが表である。画用紙は描画に適した凹凸がある面が表である。通常裏よりも表の方がデコボコしている。ケント紙や水彩紙は解りづらいものもある。
その場合、紙の透かしや刻印(ウォーターマーク)の文字が正しく読める方が表である。
 水彩紙の場合は製造過程で毛布を使用する。毛布の凹凸面が表の凹凸となる。一部に表が細目、裏が中目となるように作られているものもあり両面使用できるようになっている。
 見分けがつきにくい紙については購入時に尋ねて印をつけると間違いが無い。

紙の厚みと重さ:
 
紙には厚みや重さの違いがある。これをあらわすのは1㎡あたりの重量である。これを坪量あるいは米坪という。昔は一尺平方の目方(坪量)をはかり、現在はメートル平方(米坪)を計る。例えば木炭紙の場合105g/㎡と表記する。これを略して単に105gと表記する。
木炭紙について
 描画材としての木炭は定着力が弱い。また指やガーゼで押さえることで天然素材特有の柔らかい調子を作ることが出来る。このような木炭の特性を生かすよう開発されたのが木炭紙である。
 何度でも描き直しが効くよう目つぶれや毛羽立ちがおきにくい表面強度と、独自の深い簀目(すのこめ)の凹凸をもつ。

(※)紙の褪色にも強い中性紙である。
線を重ねる:
指を使う:
布を使う:
食パンを使う:
MBM木炭紙(仏製最高級木炭紙)

トレーシングペーパー

雁皮紙

画仙紙

鳥の子紙

ワットマン紙 290g 荒目

キャンソン ミ・タント紙

マーメードリップル紙 超特厚口

麻紙

ウォーターフォード紙 425g 荒目
 紙の厚みの違いによる種類や寸法など、メーカーにより変更されることがある。あくまでも参考としたい。
 黄板紙(黄ボール)とは藁を原料とした下級板紙である。馬糞紙ともいう。白板紙(白ボール)とは表層に白色紙を使い、板紙と合わせて作られる紙である。L判  800×1100mm半切判 550×800mm
●ボール紙
●ハトロン紙
四六判 788×1091mm
 クロッキーブックに使用される薄手の紙。地色がホワイト、クリームの2種類ある。B本判 1085×765mm
●クロッキー用紙
●再生紙
 再生紙を主としたコピー用紙A1 594mm×841mmA2 420×594mm
 模造紙とはそもそも日本の手漉き和紙(鳥の子)をヨーロッパで真似て作られた紙(機械漉き)である。それを更に日本で真似たところからの名称で、薄手の滑らかな広葉樹パルプの上質紙である。四六判 788×1091mm
模造紙
●模造紙(上質紙)70g、110g
紙(原料が木材パルプのもの)を大きく分けると洋紙と板紙に分かれる。
 洋紙とは印刷、梱包(クラフト紙など)に使用されるもので、日本で製造される紙の約6割を占める。
 板紙とは厚手の紙で多くは紙箱(ダンボール)や紙器に加工して使われる紙である。
 クラフト紙とはクラフトパルプ(繊維を傷めない薬液による化学パルプ)を原料として作られた強度のある紙をいう。針葉樹のクラフトパルプは特に強靭で米袋やセメント袋など強度と耐水性を併せ持つものがある。一般に販売されているものは薄手の包装紙で、主に梱包で使用する薄茶色の紙である。
900×1200mm
●クラフト紙 54 kg、75.5 kg
■その他の薄い紙、厚紙(※)、特殊用紙など
 越前和紙。戦前、洋紙の輸入が困難な時期、和紙の原料で国産の水彩紙を作ったのが始まりとされる。水彩紙としての手漉き和紙。ドーサ引きの有無がある。
中判 760×560mm大判 1040×700mm

MO紙
●MO紙

ワトソン紙
 木綿を主原料とした最高級水彩紙。紙質がとても強く毛羽立ちにくい。中目の中性紙で厚さが3種類あり、それぞれにロールがある。大きなサイズの作品を作ることができる。
190g/㎡、239g/㎡、300g/㎡、
四六判 1091×788mm、
ロール 1130mm×10m(300gの超特厚口は1360mm×10mある。)
●ワトソン紙(日本製)
 コットン50%。イラストレーション、デザイン用紙など幅広い用途に適す。
210g/㎡ サイズ700×1000mm
●クラシコ5
 コットン100%。表面は荒く弾力性に富む。
300g/㎡ 560×760mm
●クラシコファブリアーノ

クラシコファブリアーノ紙
 イタリア製の最高級紙。ファブリアーノ社の歴史は古く創業 700年余りとされる。ファブリアーノとはアンコーナの町の1つで、かつては貿易により栄えた町である。ヨーロッパで最古の製紙工場ができたところでもある。
●ファブリアーノ(イタリア)
 創業は15世紀で500年以上の歴史がある。手漉きに近い素朴な風合いは、長い伝統により培われた速度の遅い製造ラインによる。
繊維が密接に絡んだ強度のある紙で独自のサイジング(※)と防かび処理が施され、保存性にも優れる。アルシュ水彩紙には荒目、細目、極細目の3種類の紙肌がある。
 厚みは185kg、300kg、356kgとあり、更に厚いサイズがある。

アルシュ紙
サイジング:
 水の吸収具合やインク、絵具の滲みを止める目止め処理をいう。アルシュ水彩紙の場合はゼラチンが施してある。
●アルシュ紙(フランス)
綿(コットンパルプ):
 綿は不純物が少なく、ほとんどが純粋なセルロースである。木材パルプに比べると繊維が長く、良質である。
 コットンパルプを使用した紙は消しゴムの使用にも強く毛羽立ちにくい。phが中性に保たれるので劣化や褪色に強い。高級水彩紙や辞書、バイブルなどに使用されている。
 ヨーロッパに紙が伝わるのは11世紀頃である。その後フランスやイタリアで製紙工場ができる。紙の原料は主にぼろ布(綿、麻など)(※)が使用されていた。
 ルネッサンスの頃にはデッサンの支持体として紙が使用されている。ヨーロッパには伝統的な水彩紙がある。原料が厳選され手漉きに近いような製法で現在も作り続けられている洋紙がある。
■水彩紙について
 英国製最高級紙とされる。コットン100%で、荒目、細目がある。ややくすんだクリーム色の地色である。荒目の紙の表面は凹凸がしっかりとあり、ケント紙というよりは水彩紙に近いような紙質である。
 イラストレーション、水彩、パステルなどに使用。
細目、荒目 175kg/㎡
B本判 765×1085mm

その他に
アルビオンケント(木綿や麻の繊維を主成分とする最高級紙)、
AFケント(クリーム色の紙色でラフな表面を持つ)
アイボリーケント(平滑でとても硬い表面を持つ紙)、
ホワイトピーチケント(安価で良質)
バロンケント(印刷用に使用)などがある。
●BBケント
紙の寸法について:
 紙には仕上がり寸法と原紙寸法がある。原紙寸法は仕上がり寸法よりひと回り大きなサイズをいう。
 パネルに水張りをする場合は折り込むように余裕がある。印刷なら見当をつけて周辺は裁断する。紙を購入する場合は原紙寸法であり、例えばB2サイズ(515×728)を注文すると、B2原紙寸法(546×788)となる。
 B1判の原紙寸法をB本判という。紙の表記でよく使う四六判とは昔から日本で使う和紙(美濃紙)の単位である。
 B列の寸法は日本独自の規格でA列の1,5倍の長さに設定されているが、もとは四六判の寸法から来る

B1(仕上がり寸法):728×1030mm
B本判(原紙寸法):765×1085mm
四六判(原紙寸法):788×1091
 ケント紙の中では一般的で多くの用途に適する。良質な木材繊維を原料とするバランスのよいケント紙である。表面は緻密過ぎない程度に凹凸があるのでペン画をはじめ柔らかいクレヨンなど、いろんな描画材に使用できる。
♯200(180kg/㎡)、♯150(135kg/㎡)
四六判 788×1091mm(原紙寸法 各種原紙裁断サイズがある。)
ロール(1350mm×10m)
●KMKケント

KMKケント
 イングランド南東部にあるケント州が発祥地で、描画用紙としては画用紙と共に一般的で普及している洋紙である。緻密でとても強い表面が特徴である。
 鉛筆や金属ペンなど硬質な描画材による細密な描写に適している。吸収性があり滲みがでないのでインクの発色が良く美しい線が引ける。また鉛筆を使用すると画用紙とは違う黒鉛の発色と描き味がある。
 毛羽立ちにくいので消しゴムや金属ペンの使用にも強い。製図や版下用紙としても使用される。
ケント紙について
 特厚口。表面強度が強く、波打ちしにくい/201.5kg
B本判(765mm×1085mm)
HG画学紙
 中性紙。ナチュラルホワイト、細目/160kg、180kg
B本判(765mm×1085mm)
TMKポスター
※1:
水の吸収や乾燥は早く、水濡れの強度は他の水彩紙に比べると弱い。

上質紙:
 木材パルプの抽出方法には砕木による機械パルプと薬品による化学パルプがある。機械パルプは不純物を多く含むが化学パルプは良質の繊維をとることが出来る。
 上質紙とは化学パルプの中でも繊維を傷つけないアルカリ性の薬液で作られた主に広葉樹パルプを原料にした紙である。

紙肌:
 紙肌は製造過程で大きく3つに分かれる。製造後、紙を乾燥させたものをラフという。
 表面を平滑にするため乾燥後、さらに亜鉛板に挟んでプレスをかける。この時に常温でプレスするものをコールドプレスといい、熱を加えたものをホットプレスという。現在では表面処理の区別として用いられることがある。
荒目(ラフ)
中目(コールドプレス、ノット、コールド)
細目(ホットプレス、スムース、ホット)

※:
 画用紙は水濡れに強いとはいえない。水彩絵具を使用する場合など波打ちする。このような場合はあらかじめ水張りをするとよい。
 中性紙。A画に比べて厚い/170kg
B本判(765mm×1085mm)
サンフラワーM画
 中性紙。純白色、中目/130kg
B本判(765mm×1085mm)、ロール(1100mm×10m巻)
サンフラワーA画

サンフラワー画用紙
 木材パルプを使用し、機械漉きにより作られる上質紙(※1)である。原料が木材であり大量生産されることから他の画材専用紙と比べると安価である。
 画用紙を綿(コットン)や麻(リネン)を原料にする水彩紙と比べると、繊維は短く表面強度は落ちる。紙の表面の凹凸は主に中目か細目で適度な凹凸がある。
 紙色はナチュラルホワイトである。国産の洋紙である画用紙は、多くの画材に適応する万能性をもつ。また一般的で手軽に使えて癖が無い。例えば木炭紙のようなスノコ目の特殊な効果はなく、それだけに作り手の作業が素直に反映される紙でもある。基礎過程における鉛筆デッサンや着彩では画用紙を使用する。画用紙を広義にとらえると、「絵に用いる紙」となるが通常は専用紙がある。画用紙には以下の種類がある。
■画用紙について
 MBM木炭紙には専用の原紙寸法がある。縦横の比率は普通サイズで1:1.3となり、大判では約1:1.5となる。
AB列が1:√2である事を考えると特殊な規格サイズである。普通サイズの木炭紙は油絵の木枠寸法で P15号とほぼ同じ大きさである。
 MBM木炭紙は木炭紙の代名詞となっている。その他に、キャンソン木炭紙などがある。

MBM木炭紙の透かし部分
●木炭紙の厚さと寸法:

 普通サイズのMBM木炭紙は厚さの違いにより2種類ある。表面の凹凸は同じなので描き心地に違いは無い。紙の強度と白さ(厚みの違いによる透け具合)が微妙に違う。選択は好みである。
●各種